栗山斉氏の「0=1」。駅近くの商店街の蔵の中に、水を使ったインスタレ―ションを設置。木造建ての蔵の中でゆらめく水が、幻想的な雰囲気を醸し出している |
6月30日~7月1日にかけて、長野県・信濃大町(大町市ほか)で開催されていた、「北アルプス国際芸術祭」に行ってきました。
先日、新潟で「大地の芸術祭」の作品を見て以来、農村×アートの可能性を感じたのですが、今回も色んなことを考えさせられました。
「北アルプス国際芸術祭」とは?
信濃大町駅前のメインストリート |
街中の様子。感じのよい、古い建物が多く残っている |
信濃大町(大町市)は、近隣に黒部ダムなどを抱える水資源が豊かな地域で、かつては塩の交易が行われた街道の宿場町として栄えてきました。
ここで、今年の6月4日から7月末までかけて開催されているのが「北アルプス国際芸術祭」。
仕掛け人は、新潟の「大地の芸術祭」、瀬戸内海の「瀬戸内国際芸術祭」を手掛けてきた北川フラム氏です。
駅周辺の市街地のほか、山間部、湖の周辺などを活用し、全体で40弱のアート作品があります(期間限定のパフォーマンスアートを含む)。
駅から5キロほど離れた、鷹狩山の頂上から見た景色 |
古民家・空家を活用したアートが多い
「大地の芸術祭」が「里山の芸術祭」、瀬戸内国際芸術祭が「海の芸術祭」であるのに対し、北アルプス芸術祭は、「山の芸術祭」であることを掲げています。ただ、全体を回る中で印象に残ったのは、特に空家を活用したアート作品が多いこと。
鷹狩山頂上にある折り紙作家・布施知子氏の作品(メイン作品は撮影不可だったので、これはサブの方の小品)。地元ボランティアの方によると、これが展示されている建物は、もともとカレー屋さんだったとのこと |
同じく鷹狩山頂上にあるクリエイティブチーム・信濃大町実景舎の作品「目」。古民家に雪のかまくらが再現されている。(材質はもちろん雪ではないが)ここにいると心なしか涼しい。なお、同チームには固定ファンが多いらしく、これを見るために来た人もかなりいるとか |
信濃大町駅近く、駅商店街の建物の中にある原倫太郎・原游氏の「たゆたゆの家」。 |
木崎湖のすぐそばにある杉原信幸氏の「アルプスの湖舟」。蚊帳とお米をつかい、山間の湖面に映る倒立したアルプスを表現したとのこと。湖の気配がひしひしと感じられる |
木崎湖近くにある、ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットの「ベールの向こうに」。単純に空家にベールを掛けただけのようだが、それで雰囲気がまるで一変するので不思議だ |
大町温泉郷の空家の中につくられた新津保建秀氏、池上高志氏の「不可視な都市:ロンググッドバイ」。空いた地下スペースに敷き詰められた白い砂と映像が、神秘的な雰囲気の空間を創出している |
このほか、冒頭に挙げた「0=1」という作品も、市内の木造の蔵を使ったものです。
こうした作品が展示できるのも、(過疎化が進んで)市内にそれだけ空家が多い、ということなのでしょう。
でも、これだけの作品が生み出されたのは、「空家には、これだけさまざまな見せ方がある」ということも意味しているのだと思います。
アートを通して次の時代の生き方を考える
現代アートとして有名な作品として、マルセル・デュシャンの「泉」という男性用の小便器を使ったアート、あるいは4分33秒間、ピアノの前に座ったまま何もしないという作曲家ジョン・ケージの「4分33秒」という曲があります。現代アートというのは、作品の形状自体がどうこうというより、それが、どんなシチュエーションで、いかに意味付けされているか、という点にかかっている。「これがアートだ」と提示されれば、それが作品になる。
でも、逆に「これがアートなんだ」と言われないと、僕たちは目を向けようとしません。
(実際、僕がよく行く東京の渋谷にも、路上にさまざまなパブリックアートがありますが、目を向ける人はほとんどいません)
鷹狩山に登る途中で見かけたもの。何のための意匠かは分からないが、アートと言っても差支えなさそうに思いました。でも、ここで足を止める人はほとんどいないと思います |
こういう自然の産物も、提示の仕方しだいでアートになるのでは、などと思いました |
「要は、提示の仕方でしょ」。この状況は、そんな風に言うこともできると思います。
もっとも、このブログで、「時代の大転換期だ」みたいな話をいくつか書いていますが、先の見えない時代だからこそ、「僕たちが、今をどう意味づけしていくのか」が重要になると思います。
課題先進国と言われる日本の、その中でもさらに課題が山積している地方で行われる芸術祭というのは、まさにこの、現代の問題に深くアプローチする切り口や、アイデアを与えてくれるものだと思います。
僕自身は、アートは全くの素人で、偉そうなことを言える立場ではないのですが、アートの中に、次の時代の生き方の可能性を探れるのではないか、そう思ってなんだかワクワクしています。
(続く)
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