『2052 今後40年のグローバル予測』:未来は暗い?

2017年6月9日金曜日

読書

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2017年6月9日

ヨルゲン・ランダース著
『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP、2012)

著者のランダースは、1972年に発表され、世界の経済成長に対する警鐘を鳴らしたローマクラブの報告書『成長の限界』の執筆に参加した物理学者です。

本書は、『成長の限界』発表以降の変化を振り返りつつ、2012年時点における今後の40年の世界の変化を展望しています。


ローマクラブの『成長の限界』は、もともと天然資源の限界量や地球環境の問題に焦点を当て、当時の経済成長の在り方に疑問符を投げかけたものでした。
本書もその問題意識を受け継ぎ、持続可能な社会を築くためのポイントを考察しています。

特に、今後の世界の変化に大きく関わる点として、ランダースが注目しているのは、資本主義、経済成長、民主主義、世代間の平等、地球の気候と人間の関係という5つの分野。

この5分野に基づき、日本語版で500ページ弱にわたり、著者自身の分析や、有識者のコラムが掲載されています。

多様なデータを活用し、各項目を深く分析している上、現時点での予測がどこまで有効性なのか、といった点まで、深く考察されています。
その詳細の是非を論じるのは、僕の能力を超えていますが、以下、印象に残った予測を記しておきたいと思います。


●資本主義と民主主義は短期的志向になりがちなため、気候変動などへの対応は間に合わない。


ランダースは、気候変動問題に関して、世界がGDPの1%を再生可能エネルギーなどへのシフトに投資すれば、致命的なレベルで温暖化が進むのを食い止めることができると指摘します。
ただ、ランダースは、「それは恐らく行われないだろう」と見ています。

なぜなら、民主主義社会においては、多くの人は短視眼的に「少し先が良くなればいいだろう」と思いがちだからです。株主も同様に、短期的な利益を追求する傾向があります。

これから、再生可能エネルギーなどのビジネスは間違いなく伸びるだろうし、気候変動問題をどうにかしなくては、と思う人の数も増えるでしょう。
しかし、ランダースは、それでも、こうした民主主義の欠陥から、対応は間に合わないだろうと見ています。

印象に残ったのは、ランダースが、欧米よりも、むしろ中国の共産党一党独裁体制の方を高く評価し、中国の方が、気候変動の問題に積極的に対応できるだろうと見ている点です。この辺りも、一考の必要がありそうです。


●人は、ますます都市に流れ込むようになる。自然と触れ合うような生活は、贅沢品となる。

気候変動の影響により、世界各地で洪水や干ばつなどの被害は、今よりもひどくなることが予想されます。(実際、別の本で「2000年代に入ってから、世界中で自然災害が激化している」といった指摘を僕も読んだことがあります)

しかし、各国政府は、財政の余裕がないため、防災対策に十分な金を回すことができません。必然的に、人口が多く、インフラ投資のコストパフォーマンスの高い都市部への投資を増やすことになります。

さらに、都市部の方が雇用先が多く、公共サービスも整っている。それもあって、今後、世界中で、都市化と地方の過疎化はますます進んでいくだろうと、ランダースは予測しています。

その一方で、今後、人間の資源収奪(熱帯雨林の伐採など含む)や気候変動の影響により、生物の多様性はますます失われます。ロマンチックな憧れとともに語られがちな「自然に囲まれた豊かな生活」は、もはや”贅沢品”になるということです。

ランダースは、本書の末尾において、読者へのすすめとして、「子どもたちに無垢の自然を愛することを教えない」「生物多様性に興味があるなら、今のうちに行って見ておこう」と、多少皮肉をこめて書いています。
(なお、ある科学者は、恐竜が栄えた時代の生物は、現代においてほとんど死に絶えたことを挙げ、「時代が大きく変わる時、生物の多くも死に絶える」と指摘しています)



この部分を読んで、複雑な気持ちがしました。

昨年出版されて評判となったリンダ・グラットンの『ライフ・シフト』でも、「これからの時代に必要となるのはイノベーションだが、イノベーションは同様の関心を持っている人が集まる場所で起きやすい。そのため、都市部にますます人が集まり、地方は過疎化するだろう」と予測しています。
これだけ政府や地方自治体が「地方創生」を叫んでいる日本でも、いまだに、東京への人口流入が超過している状態であり、世界の流れから見ても、「地方創生」はとても分の悪い取り組みなのだろう、と思います。

だが、地方が衰退すれば、その地域の自然を管理する人もいなくなる。それによって、ますます環境問題は悪化するという悪循環があります。
その点も踏まえ、どういう取り組みが求められるのか、考えていく必要があります。


●仕事は、サービス、介護、省エネ、再生可能エネルギー関連のものが雇用が増える。


世界的な高齢化の進展や、ITやロボットを使った生産性の向上が図られる結果、今後、製造業や農業で雇用が減り、都市部でのサービス業や介護、省エネや再生可能エネルギーが大きな労働市場になるだろうということです。

リンダ・グラットンの『ライフ・シフト』などでも、同様の分析がなされており、これはそれなりに確度が高い予想なのでは、と言う気がします。
(『ライフ・シフト』では、このほか、クリエイティブな仕事なども挙げられていますが)

●国家は経済成長を続けようとするが、人口減少などからうまく進まない。

本書を読んでいて改めてはっとさせられたのは、「経済成長は、富を社会に再分配し、社会を安定させるもっとも簡単な方法だ」ということです。
なぜなら、経済成長は新たな雇用を生み出す原動力となるからです。仕事があれば、人々は、生活に必要な金を得られるようになります。

そのため、各国政府は今後も経済成長を続けようとします。

ですが、本書では、「これまでと同じようなペースで経済成長はできない」と見てます。
なぜなら、今後、都市化の進展により人口増加率が下がるほか、サービス業・介護など生産性を上げることが難しい産業の比重が高まるためだということです。

ランダースは、1970~2010年までで世界のGDPは3倍になったが、今後、経済成長は鈍化し、2052年段階で、現在のGDPの2倍にとどまると予測しています。


本当に大きな変化は2052年以降

こうしたさまざまな予測をしながらも、ランダースは、「本当に大きな変化が起きる(例えば、気候変動の影響が致命的になる)のは、2052年以降だろう」と述べています。

それまで、まだ紆余曲折があると思いますが、肝心なのは、自分がどう動くか。
ランダースの予測は、あくまで世界全体の傾向なので、ニッチな部分でできることは多くあると思います。
(実際、日本で地域おこしに関わっている人などを見ていて、こうしたグローバル予測に当てはまらない、面白い動きが起きてきそうだという気がします)

そして、ニッチな動きによって、地球を少しでもよくできるのではないか。
今後、こうした可能性を探っていきたい、と思いました。











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