立ち止まって自分を見つめる:プラムビレッジのリトリート(1)

2018年1月3日水曜日

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「Breathing in, breathing out, I know I am feeling anxiety.」

「Breathing in, breathing out, I am looking at my anxiety deeply.」

(息を吸って、息を吐いて、私が今、不安を感じていることに気づく)

(息を吸って、息を吐いて、私は、自分の中にある不安を深く見つめる)

今、このブログを書いているのは、自宅近くのドトール。

昨日、海外旅行から東京に戻ってきたばかり。

なのに、心の中には、明日から再開する仕事やその他の不安が、すでに吹き出してきている。

そんな中、深く呼吸をしてみる。

自分の中にある、重くて暗い油のような感情を見つめてみる。

少し早くなっている心臓の鼓動に、耳を傾けてみる。

そのまま、1分ほど、呼吸を続ける。

そんなふうにして、このブログを書き始めた。


12月29日から1月2日にかけて、タイにある仏教の僧院「プラムビレッジ」で、マインドフルネス瞑想のリトリートに参加。自分を見つめ直す、とても良い時間を頂いた。

長くなりそうなので、今回はまず、「プラムビレッジってどんなところ?」という点を中心に、書きたい。

プラムビレッジとは?


最近、日本でも注目されることが多くなった「マインドフルネス瞑想」。

「プラムビレッジ」は、この「マインドフルネス瞑想」を世界に広めるきっかけとなったベトナムの禅僧、ティク・ナット・ハン師が、活動拠点として作った場所。

僕が今回訪れたタイに、大きな拠点があるほか、ティク・ナット・ハン師が長年活動したフランス、香港にもある。

米国にも、(「プラムビレッジ」という名前ではないものの)大きな瞑想センターがあるらしい。

このほか、世界各地に「サンガ」(仏教者の共同体)と呼ばれるサークルがあり、緩やかな形でつながりながら、定期的な瞑想会を開くなどの活動している。

(僕自身は、普段は神奈川県にある「ゆとり家」というサンガで、月に一回、瞑想会に参加している)

マインドフルネス瞑想については、こちらもご覧ください。
不安との向き合い方:マインドフルネス瞑想について


タイのプラムビレッジってどんなところ? 


アジアの拠点の一つ、タイのプラムビレッジは、バンコクのドンムアン空港から、車で3〜4時間程度の距離にある。

(200キロくらい離れているようだが、渋滞の状況で、到着時間はかなり変わる。僕の場合、行きは4時間かかったが、帰りは2時間ちょっとでドンムアンに着いた)

かなり田舎の方らしく、プラムビレッジ周辺には、北海道で見るより少し小さいくらいのサイズの農場がいくつもあった。

プラムビレッジも、相当な広さで、知らない人が見ると、農場の一つと勘違いするのではないか、という気がする。(実際、敷地内には、農園がある)

僕がプラムビレッジに到着したのは、29日の朝の6時だった。

まだ薄暗い早朝だったにも関わらず、あちこちから鳥や虫の音が聞こえ、濃密な生き物の気配が感じられた。

(もっとも、12〜1月は乾季だったためか、蚊はほとんどおらず、ほっとした)

南国らしい、パパイヤやマンゴーなどの植物が植えられ、あちこちにカラフルな花が咲いていた。

昼、太陽が上りきると、日なたは大変な暑さになるが、木陰にいると涼しく、昼寝をすると、これ以上ないほどの気持ちよさだった。

青空のキャンバスを背景に、楽しげに刻々と姿を変えていく雲を眺めていて、ふと、「南国の楽園」という言葉が自然と思い浮かんだ。

「気づき」の力を高める場所:15分ごとに鳴り響く鐘


「あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ!あ、もうこんな時間だ、仕事、全然終わってないよ、どうしよう〜」

僕は、普段、こんな感情に振り回され、冷静さを失うことが多い。

(僕だけでなく、こんな状態になりがちな人は、多いのではないかと思う)

こうした時に、
「あー、もう、イライラする」だとか、
「もう、スケジュールつまり過ぎ。なんでオレばっかり・・・もう何にもやりたくない」といった、ネガティブな感情が、心を霧のように覆ってしまうことは、よくある。

ティク・ナット・ハン師の説くマインドフルネス瞑想は、こうした状況に対して、「今、ここにある自分の命」に気づき、自分を見つめ直すことを大切にする。

そして、プラムビレッジでの生活は、この「自分を見つめ直し、自分らしく生きる」ことを実践するための”仕掛け”を、さまざまな形で設けている。


その一つの例が、15分ごとに鳴り響く鐘だ。

「カーン、カーン」と聞こえてくると、プラムビレッジの中にいる人間は、おしゃべりや作業を止めて、立ち止まる。

そして、目を閉じ、「自分は今、息を吸って、息を吐いている」と、気づく(自分の状態を客観視する)。

これを朝から夜まで、繰り返し行う。

プラムビレッジに行く前から、この「15分ごとに鳴る鐘」の話は聞いていたが、実際に体験してみると、自分が、これまでの人生で感じたことがないほど、「冷静になりやすくなっている」のを感じた。

たとえば、帰りの日。

僕はLCCでチケットを取ったこともあり、帰り時間が他の人と異なり、1月2日の早朝3時半に、タクシーに迎えにきてもらう予定だった。

この時、(男性でこのタイミングで帰るのは僕一人だったこともあり)真っ暗な中、一人、男性用宿舎の近くの駐車場で待っていた。

すると、ふと、不安が押し寄せてきた。

「果たして、こんな早朝にタクシーが来てくれるのだろうか」
「昨日、レジストレーションのスタッフさんに、念押ししておくの、忘れちゃったよ」
「こんな早朝だと、もしタクシーが来なくても、誰かにヘルプを求めることもできない・・・」

でも、すぐに、「あ、自分の中に、不安が出てきている」と気づいて、「呼吸、呼吸」と、息を吸って吐いた。

そして、

「ここで、万が一タクシーが来てくれなくても、朝5時にはレジストレーションのスタッフが働き始める。その時に対処をお願いしても、空港にはギリギリ間に合う」

「ま、最悪、飛行機の時間がずれても、自分が死ぬわけじゃないし」

といった判断が働いた。

(結果的に、予定通りにタクシーは来て、特に問題はなかったが)


「気づき」の力を高める場所:食事の前の祈り 


「立ち止まる」ということに関して、もう一点触れたいのは、「食事の瞑想」だ。

ご飯は、食堂の近くにあるテントでバイキングになっている(すべてヴィーガン料理)。

そこでご飯をよそい、食堂まで持ってくる。全員で「頂きます」を言う必要はない。

ただ、食膳につく時は、周りにいる人に、声に出さず挨拶をする。

さらに、食堂の前にあるブッダの像に合掌する。

そして、心の中で、「食前の祈り」を唱える。

(「食前の祈り」に関しては、こちらもご参照ください)

それから、食べ始める前、周りにいる人に合掌をする。そして、しばらくの間、黙ったまま、食べる。

これは「食べることに集中し、自分の心を整える」ことと、「この食べ物がどのようにできたのかに思いをはせ、この世界に感謝する」という2つの意味がある。

こうした習慣のためか、お坊さんの中には、背筋を伸ばし、スプーンでゆっくりとご飯を口まで運び、ゆっくりと噛むなど、「食べる所作が美しい」と感じる人が多くいた。


自分自身を見つめる集中力

コミュニティー全体で、「立ち止まって、自分を見つめる」ことがノルマになっている空間の持つ力の強さを、今回、実感した。

僕自身は、学生時代に禅宗の座禅のお寺に通っていたことがある。また、6年ほど前からヨガをはじめ、断続的に瞑想を行ってきた。

ただ、これまでの自分の瞑想は、「脳の興奮を抑え、気持ちを落ち着かせる」段階にとどまっていた。

「自分がどんな感情を感じているか」
「自分が感じている感情の根っこには、何があるのか」
まで、深く洞察するレベルでの瞑想ができていなかった。

だが、今回、プラムビレッジの穏やかな空気の中で、かつてないほど、自分を見つめる集中力が生まれているのを感じた。

そして、この「気づき」の力を使って、自分が普段の生活の中で感じている不安や、苦しみがいったいどこから来るのかを、見つめてみた。

それについては、次回以降、書きたいと思う。


リトリートはどんな形で実施?


僕が参加したのは、プラムビレッジ・タイが年末に行っている恒例のリトリートだ。

今回は、12月26〜1月1日にかけて実施されたが、僕は仕事の都合で29日からの参加となった。

リトリートの1日は、こんな感じである。

朝は4時半に起床の鐘がなる。5時過ぎから座禅の瞑想。その後は、1時間ほど、敷地内を「歩く瞑想」を行う。

7時過ぎから朝食。8時半くらいから僧院内の炊事場の掃除やトイレ掃除などに取り組む(これは、「働く瞑想」と言われている)。

10時前から、大ホールに集まり、法話を聴講。

12時から昼食を取った後、13時半からは、「トータル・リラクゼーション」を行う。

「トータル・リラクゼーション」とは、寝転がり、お坊さんのインストラクションにしたがって身体の力を抜いていくもの。

(ほとんどの人は途中から寝ているが、リラックスすることが目的なので、寝てもOKだ)

15時頃から、グループごとにその日気づいたことをシェアする「ダルマ・シェアリング」という時間を持つ。

(もっとも、話したくなければ話す必要はない。その場合は、「ただ沈黙を味わいましょう」と言われる)

17時過ぎから夕食。その後は、また短い法話があったりと、その日によって色々。

朝が早いこともあり、僕は大体、9時前には寝た。


リトリートには、日本人のほか、中国(香港を含む)、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、カナダ、米国など、さまざまな国・地域から、200人以上が参加していたらしい。

こうしたインターナショナルな環境のため、プラムビレッジ・タイの共通言語は英語で、法話も英語で行われる。

(もっとも、日本語や中国語の通訳がつくので、英語が分からない人も参加できる)

驚いたことに、お経も英語で唱える。きれいなメロディーをつけて、歌うように唱えるので、なんだか賛美歌を歌っているような気分になる。

マインドフルネス瞑想への注目が、世界中で高まっていることを受けて、リトリートへの参加者は年々増えているとのことだ。

ちなみに、今回、宿舎に入り切らない参加者は、宿舎近くに設けられたテントで過ごした。

僕もテント組だったが、夜、日本から持ってきたジャケットなどを来て、借りた毛布をかければ、少し寒くはあったが、住み心地はそれなりに良かった。

(不運にも風邪を引いた人もいたが)

(つづく)

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