道を練り歩く参加者の男たち |
水をぶっかけられた瞬間、振り絞るような掛け声が上がった。
1月の東北。晴天とは言え、気温は氷点下に近い。
そんな凍てついた空気の中、ふんどし一丁の男たちがバケツで水をぶっかけ合う。
肉体と肉体を押しつけ合いながら、大声を張り上げる。
見ているこちらも、全身が総毛だって、内側から熱さがこみ上げてくるようだった。
岩手県金ケ崎町の「永岡蘇民祭」
1月26〜27日、岩手県南部にある西和賀町と金ケ崎町をめぐるツアーに参加した。
県の助成による移住促進イベントで、友人に誘ってもらったのだった。
このうち、2日目朝に訪れたのが、金ケ崎町の「おらが村の永岡蘇民祭」である。
「蘇民祭」とは、岩手県を中心に各地で行われる裸祭り。厄払いや豊作を祈る行事。
特に、奥州市の「黒石寺蘇民祭」は、「日本三大奇祭」に挙げられるほど有名だ。
インターネットで拝見した以下の体験記によると、-12℃の中を夜中に川で水浴びしたりするそう。
見ているだけで死にそうである・・・。
岩手 蘇民祭2018|-12℃!!ほぼ全裸!
命の覚悟を持って参加した!過酷すぎる炎と裸の祭り 前半戦
金ケ崎町の「蘇民祭」は、もう少し温和な雰囲気のものだ。
けれども、見ていて深く感じるものがあったので、書き記しておきたい。
参加者も水をぶっかけていく
金ケ崎町は、トヨタ自動車の工場がある企業城下町。その関係で診療所といった生活インフラも充実し、外部からの移住者も多い。
そうしたオープンな気質もあってか、金ケ崎町の「蘇民祭」には、日本全国からの参加者が訪れる。
僕が見た2019年の祭りでは、沖縄のユーチューバーなども参加していた。
お祭りは、以下のような形で行われる。
まず最初に、代表の男たちが餅つきを行い、それを会場にいる来場者で食べる。
(スタッフの女性が、来場者に配って回る。無料だ。)
それから、参加者が入場。彼らを前に、浄土真宗のお坊さんがご祈祷を行う。
そこからが、本番だ。
参加者同士でバケツを取り、水をぶっかけ合う。
そして、おしくらまんじゅうをしながら、「わーしょっい」と掛け声を挙げる。
その後、会場の前の道路を、男たちが腕を組んで駆ける。
周りの人々が、道脇に置かれたバケツに水をくんで、彼らにぶっかけていく。
(自分も2杯、ぶっかけた)
会場に戻ってきたら、裸の男たちの代表者たちが肩車で上にあがる。
そして、飴やお賽銭の入った袋、縁起物の木片「小間木」を来場者にばらまく。
「小間木」は、1年間、厄除けの効能があるお守りだ。これは、来場者で取り合いとなる。
(自分も、なんとか1つ、もらうことができた。)
「蘇民祭」を締めくくるのは、「小間木」が入っていた「蘇民袋」の争奪戦だ。
裸の男たちによるラグビーのスクラムのような状態が、10分間続く。
最後に、袋の口に近いところを握っていた人が、その年のチャンピオンとなる。
「生命の衝動」に気づかせてくれる
「小間木」 |
そう聞いて、最初に連想したのは、滝行だった。
滝行は、冷水に身を委ねることで、無心になることを目指す。
実は、今回、自分が参加したのも、
「滝行と同じような神事が見られるなら、面白そう」
というところがある。
ただ、実際に目の当たりにしたのは、皆で声を掛け合いながら、寒さを乗り切る熱を生み出す熱い男たちの姿だった。
滝行や瞑想のような「静」に対し、「蘇民祭」からは「動」の力を強く感じたのである。
※
僕は、内向的な性癖が強いため、集団でのイベントごとが苦手である。
不安症なので、基本的に「静」の環境下で、自分を整えたい衝癖もある。
ただ、
「わーしょっい」「わーしょっい」
と声を張り上げる人々を見て、自分の肉の中で、弾けるような熱を感じたのも事実だ。
この、どろっとした、生命の衝動のようなもの。
最近、いろんなことを小賢しく頭で考えすぎていたかもしれない。
もっと、自分は変われる。
「人生がうまく行かない」とあれこれ悩んでいた心が、強く揺さぶられた。
次回は、自分も裸の男になって参加したいものである。
移住促進ツアーに参加しておいて、移住にも金ケ崎町のPRにも関係のない感想で恐縮の至りである。
ただ、この祭りを成り立たせてくれている地元の方々に、率直な感謝を捧げたい。
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