ジョン・レノンの命日に寄せて
12月になると、空気にも白さが混じるように感じられる。師走の忙しなさと、クリスマスの浮かれ気分。この時期への思いは、人それぞれ。
自分はこの時期、ジョン・レノンの曲を聴き直したくなる。1980年12月8日が、彼の命日だからだ。
「この人に恥じない、正直な生き方をしたい」
ジョン・レノンという人は、自分にそう思わせてくれる存在だ。
これがファン心理ってヤツなのだろうと思う(自分は芸能人のファンクラブといったものに入ったことはないから、よく分からないけれど)。
昨年もこのブログで書かせて頂いたが、今年も、別の角度からジョンに向き合ってみたい。
子どもの気持ちで過ごすクリスマス:ジョン・レノンを再聴して
『ダブル・ファンタジー』と軽み
江戸時代の俳人、松尾芭蕉に「軽み」という言葉がある。「わび」「さび」「しおり」の先にある俳句の究極の境地として、芭蕉が晩年に提起した理念だ。
この言葉を知ったのは中学生の時。松尾芭蕉の伝記(マンガ)の中だった。
人生の年輪を刻んだ微笑みを浮かべて、松尾芭蕉が弟子たちに、「俳句で大切なのは、かるみですよ」と語っている(うろ覚えだが)。
その場面を読んだ瞬間、ふっと、子どもが夕暮れの砂浜でスキップしているような、楽しげなイメージが浮かんだ。
人生のさまざまな労苦の後、羽が生えたように、身も心も軽くなる瞬間が訪れるのではないか。そんな気がしたのである。
「楽と苦を秤にかければ、苦が重いのが、人生ってものだ」。
社会人になってしばらくするまで、自分はよくそう考えては、人生に怯えていた。
そんな自分に、この「かるみ」という言葉は、不思議な彩りを帯びて心の中にとどまっていたのである。
もっとも、俳句になじみの薄い自分にとっては、「かるみ」とは具体的にどのような心境なのか、よく分からなかったのが正直なところである。
ただ、その後しばらくの時を経て、ある時、
「”かるみ”って、こういうことなのかも」
と、ほんのごく一部だけど、その感覚がつかめた気がした。
ジョンの『ダブル・ファンタジー』というアルバムを聴いた時だ。
40歳でもう一回旅立とうよ:『スターティング・オーバー』
ビートルズのリーダーとして、スターとしての華やかな生活と孤独。オノ・ヨーコとの出会い・平和活動と2年間の別居、麻薬中毒・・・波乱に満ちた生活の後、ジョンは1975年に音楽活動を休止。息子のショーンの育児に専念するようになる。
1980年の11月に発表された『ダブル・ファンタジー』は、そんな彼の復帰作だ。
(残念ながら、このアルバムの発表からすぐ、ジョンはニューヨークで暗殺されてしまうのだが)
5年間音楽活動から遠ざかっていたら、音楽もつまらなくなるんじゃないか。
普通はそんな気がするが、このアルバムには、それまでのジョンの作品には見られない、不思議な軽さがある。
冒頭を飾る『Starting Over』。明るい鐘の音に続き、「僕たち、また旅立ってみてもいいんじゃない?」とジョンは歌う。
Why don't we take off alone
Take a trip somewhere far, far away
We'll be together all alone again
Like we used to in the early days
飛び立ってみないかい?
どこか遠く遠くへ。
その中で、僕たちはまた一緒になるだろう。
昔みたいに。
40歳と言えば、日本では一般的に、キャリアを積み、家族も持ち、自分の人生が一番「重く」なっている時期だろう。
それに対して、40歳のジョンは、「もう一回自由になって、旅立とうよ」と呼びかける。
歌詞の内容だけでなく、歌い方にも、不思議な明るさが溢れている。
『Woman』と成功の意味
また、「Woman」という曲。これは彼の妻オノ・ヨーコを含む全ての女性に向けて歌った、感謝の歌だと言われている。この曲には、「俗っぽさ」と「ピュアさ」の不思議な交わりがある。
Woman I can hardly express
My mixed emotions at my thoughtlessness
After all, I'm forever in your debt
うまく言えないんだ、
この混乱した気持ちを。
とにかく、僕は君に、永遠に貸し(debt)があるってことだよ。
Debtとは、借金や負債のことだ。
英語ネイティブにとって、この言葉がどれほどの重みがあるか分からない。
ただ、初めて耳にした時、「これって、つまり『ボク、君に一生、借金負ってるんだよね。ハハハ』」みたいなニュアンスなのかも、と思った。
(ジョンの歌い方が、また実に爽やかなのである)
And woman I will try to express
My inner feelings and thankfulness
For showing me the meaning of success
でも、なんとか表現してみるよ。
僕の心からの気持ちと感謝を。
君が、僕に成功(サクセス)の意味を教えてくれたのだから。
「成功」とか「サクセス」と聞くと、本屋に山のように積まれた、ビジネス本や自己啓発本のイメージが浮かぶ。
でも、このジョンが口にしている「サクセス」という言葉には、もっと複雑な思いが色々と詰め込まれているのだろう。
人生というのは無常であるから、一時的に何かがうまく行っても、また悪い時期がやってくる。たいてい、その繰り返しだ。
ただ、もしかしたら、何かの重みを背負っていても、軽くあり続けられる心の持ち方ができるかもしれない。
それこそ、真の人生の成功なのかもしれない。そんなニュアンスもちょっとあるかもしれない、という気がするのである。
※
ジョンが『ダブル・ファンタジー』歌っている境地は、今の自分にとっては遠いものだ。
でも、いつか分かるかもしれない。それが、今後生きていく上で、ちょっとした楽しみでもある。
ジョンが亡くなって38年。まだ色々と宿題をもらっています。
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