「もし今日が人生最後の日だとしたら、自分は今やっていることをやりたいと思うか」
社会的起業などに関心がある人の多くは、こんな問い掛けを耳にしたことがあるのではないかと思う。
これは、スティーブ・ジョブズが死の直前にスタンフォード大学で行った、有名な演説の一節だ。
明日をも知れぬ身
明日、自分の人生はないかもしれない。このジョブズの問い掛けが実感として迫ってきた、二つの出来事がある。
一つは、2011年の東日本大震災だ
その時、僕は当時勤めていた会社のテレビで、東北の町が津波で流される様を見ていた。
「人間がつくったものは、こんなに簡単に壊れてしまうんだ」
「ひとたび大きな災害があれば、自分も、逃れようもなく死んでしまうだろう」
そんな思いが、東京の余震が終わった後も、自分の中で鳴り響き続けた。
もう一つは、イスラム国に関連したテロ事件だ。
欧米では、2015~16年にかけてサッカースタジアムや観光地などでたびたびテロ事件が発生した。
自分と同様、ごく普通の生活をしていただろう市民たちが巻き込まれているのを見て、「次はいつ、日本に来るだろうか」と思った。
政府に対し、「しっかり対策を取れば、防げたのではないか」と疑問を投げ掛けることはできる。
でも、どれほど対策を立てようと、自爆テロを狙う人たちに対して、恐らく完璧に抜け穴を塞ぐことはできないだろう。
今、北朝鮮のミサイルに関するニュースが、連日のように報道されている。
今この瞬間に、僕の住んでいるところにミサイルが飛来し、僕の体が蒸発してしまう可能性も、ゼロではない。
人生最後の日にやりたいこと
もっとも、だからといって自分が、「明日、人生が終わる場合に本当にやりたいこと」
を今、やりに行くだろうか、と考えると、多分やらないと思う。
僕が明日、死ぬとしたら、恐らく仕事は全て放り投げるだろう。
そして、会いたい人に会いに行くことを選ぶ。
でも、そうしたことをやると、逆の意味で、「明日」をつくれなくなる。
(仕事をやらないと、自分の稼ぎがなくなる。
また、困る人も出てくる)
僕は、明日を続けたいと思うから、仕事をやっているわけだ。
明日が無いとしたらやらないだろう。
でも、明日がある可能性がある限り、やり続けるだろう。
時間をかけて物事を行う
もう一つ、思うのは、世の中には、時間をかけなければ見えない世界があるということだ。前にお世話になったコンサルタントの方に薦められて読んだ『アイデアのつくり方』(米国の広告マン、ジェームズ・W・ヤングの著書)の中に、面白い指摘があった。
ヤングは、良いアイデアを生み出すには、関連する文献などを大量に読んだ後で、「いったんそれを寝かせる」期間を持つことが重要だと指摘している。
実際、一度集中して情報を摂取したり考えたりした後で、それを忘れて別のことをやっていると、ある時突如として良いアイデアの閃きが得られたりすることは、よくある。
あるいは、「仕事は3年間やると、その魅力や奥行きが見えてくる」とも言う。
やり始めた時は無意味に思えても、続けるうちに、奥深さが見えてくる場合もある。
前に、このブログで、ぬか漬けが熟すように、自分の考えも熟すことがあるのではないか、と書いた。
日々の作業を、効率的・合理的に行うことは必要だ。
けれども、より本質的なことにアプローチするには、ビジネスでも自分の人生でも、すぐに結果が出ないことに時間をかける必要があるのではないかと思う。
歩み続けること、それ自体がゴール
時間をかけなければ、見えない世界がある。一方で、僕たちが「明日、死ぬかもしれない身」であることは、変わらない。
このことを踏まえ、日々をどんな心掛けで生きればいいのだろうか。
それは、
「歩み続けるプロセスそのものが、自分の人生のゴールだ」
と思うことではないか、と思う。
禅宗の一派である曹洞宗の始祖、道元に「身心脱落」という言葉がある。
これは、
「”悟る”とは、最終的な完成態に至ることではなく、『私はこれで行く』と、自らの歩みを確信すること」という考え方らしい。
結果を出すこと、ゴールに至りつくことではなく、そこに向かって歩むこと自体が、”生きる”ことではないか。
「There is no path to peace. Peace is the path(平和への道はない。平和こそ道である)」
これは、非暴力・不服従を訴えた、ガンジーの言葉だ。
マインドフルネスを広めた禅僧、ティク・ナット・ハンの教えにもよく出てくる。
平和というのは、何かの事業を通して達成するものではない。
自分や周りの人が、日々、平和な心で生きることが、世界を平和にする道であるという意味だと思う。
自分の人生の方向を、見据えることは大切だ。
目標を立てて、その達成期限を設けるのもいい。
特に、組織として物事を考える場合、事業目標を据えることは大切だろう
でも、自分と言う個人にとっては大切なのは、達成すること自体よりも、そこへ向かうプロセスの一つ一つを充実させることだ。
それが、恐らく、悔いのない人生を送るコツだと思う。
こんなことを考えながら、一見、些末に見える日常のことにも、心をこめて向き合えればと思うのです。
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