その日、わたしたちは焚き火をしていました。
太陽はかげり、雲が重く空にまだら模様をつくっている。灰色の風が森を揺らしてました。
「Cちゃん、寒いよ。もっと燃やそう」。
Fちゃんは、私にそう語りかけました。Fちゃんと一緒にいられるので、わたしは夢見心地でした。
「うん・・・。」
わたしは、青い固まりを、炎に投げました。ボボボン、とすごい音がして、大地が揺れました。
Fちゃんの顔は炎に照り返って、虹色のオーロラみたいに輝いていました。あたりにはキーンとした匂いがたちこめ、わたしは窒息しそうになりました。
「ちょっと息がしづらいね」「うん、でもすぐに落ち着くよ」
「これでね、お肉をあぶるとおいしいんだよ」。
Fちゃんはプラスチックのパックから油でテカテカしたお肉を取り出すと、少し緑がかった炎であぶり出しました。
わたしは、Fちゃんを食べちゃいたいくらいに、愛しく感じました。
※
次の日も、わたしはFちゃんと一緒に焚き火をしながら、幸せな気持ちでした。
寒さは一層強くなり、こころなしか森も、いつもより静かなように感じます。
Fちゃんは炎を見ていて、わたしを見ませんでした。
「Cちゃん、もっと燃やそう!」
わたしは、本当は青い固まりをまた炎の中に入れるのが、少し不安でした。でも、Fちゃんと一緒にいられる嬉しさが、そんな不安に勝りました。
案の定、今回もキーンとした青い匂いが立ち込めて、昨日よりもっとフラフラしました。
Fちゃんの瞳はキラキラと輝いて、まるでお星さまのようでした。
ベガとアルタイル・・・。吸い込まれそうな宇宙の冷たさを思いながら、わたしたちのことを考えました。
※
そして3日目。Fちゃんが言いました。
「今日は、もっと良いのを用意したよ。これなら、Cちゃんも苦しくないよ」
Fちゃんが持ってきたのは、緑の固まりでした。緑はまるでエメラルドのようで、なんだかこの世の物質ではないみたいでした。
そして、Fちゃんの表情は、まるで魔法に酔っているみたいでした。わたしはそばにいて、なんだか初めて、Fちゃんがちょっと怖くなりました。
(Fちゃんが怖いなんて、そんなことを思っているからバカなんだ。皆にもバカにされるんだ)
心の中でかぶりを振って、「ありがとうね」とにっこり、緑の固まりを受け取りました。
冬でもないのに、空はますます寒くなってきていました。森は、なんだかずっと遠くへ行ってしまったみたいでした。鳥の声も聞こえませんでした。
でも、Fちゃんの顔は、蒼白にキラキラと光り、こんなにきれいな人は見たことがないくらいでした。
わたしは、ゆっくりと薪を組んで、火を付けました。はじめ、トカゲの舌くらいにチロチロとだけ見えていた赤い炎は、徐々に大きくなっていきます。
「じゃあ、入れるね」
その時、Fちゃんがふっと聞きました。「ねえ、本当に入れてもいい?」
わたしは、ふと胸をつかれたようになりました。わたしが心の底でおもっていたことを、言い当てられたような気分だったのです。
「なんで?」わたしは、笑顔をつくりながら、Fちゃんに聞きました。
「Cちゃんが、なんか嫌じゃないかなって思って」。
私は、Fちゃんが愛おしくなりました。「ううん、そんなことないよ」。
冷たい風がまた吹いてきました。Fちゃんを早く温めてあげたいなあ。
そんなことを思いながら、私は火のそばに緑の固まりを持っていきました。
ふっと、Fちゃんがわたしの後ろに立って、私を押してくれているように感じました。熱にうかされたように、夢見心地のまま、緑の固まりは手からこぼれ落ちていきました。
その瞬間。亀裂が入ったような音がして、世界は真っ暗になりました。
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