2月初旬、東京に少し戻った。
そのとき、関東に住む友人を訪ねる機会があった。
友人は、先般子どもが生まれたばかり。育児に大わらわな所を、お邪魔させてもらったのだった。
赤ん坊は、まだ首がすわっていないおちびさん。
でも、お母さんの子守歌と一緒に「アーアー」と歌ったり、自分の手をじっと見つめ、こちらに微笑みかけたりする。
そんな姿を見て、スタジオジブリのアニメ『崖の上のポニョ』の歌詞を思い出した。
「ペータペタ ピョーンピョン
足っていいな かけちゃお!
ニーギニギ ブーンブン
おててはいいな つないじゃお!」
走れる足があること。
誰かとつなげる手があること。
歌える声があること。
その、奇跡。
この曲を初めて聴いたとき、生きることの初源的な喜びに触れた気がして、言い知れぬ感動を覚えた。
そして今回、赤ちゃんが泣いたり、オムツを変えてもらってキャッキャと喜ぶ顔を見ながら、
「こうやって、人は笑うことを覚えていくんだなあ」
神秘的な思いに、深く心を致したのだった。
※
その夜、成田空港そばのゲストハウスに泊まった。
「コロナウイルスのせいで、インバウンドビジネスは厳しい状況だね」
「どこかにうまい儲け話は転がってないかナア」
ご主人とそんな世間話をした後、部屋の電灯を切って、ベッドに横になった。
闇の中、うつつから夢の岸辺へ流れていく途中、ふと脳裏に
「あかりが笑うと、世界が笑うよ」
という、詩のような言葉がよぎった。
(「あかり」というのは、赤ん坊の名前)
ふだんは詩をつくる趣味なんてない。なぜそんな言葉が出てきたのか、自分でも不思議だった。
それから起き上がり、読書灯を付けた。
そして、とめどなく浮かびあがる言葉たちを、改めてまとめてみた。
小さな命に
あかりがわらうと 世界が笑うよおかあさんを いっぱい困らせて
おかあさんを いっぱい笑わせて
小さなおててを ブンブンふって
小さなあんよを グルグルまわして
生まれてうれしいって いっている
ながい病気の後、
はじめて太陽の下を歩くように
世界はきっと、奇跡でありふれているんだね
あかり 天からの贈りもの
あなたの夢に 静かな雪が注ぎますように
おかあさんの心に 小さな灯りがともりますように
※
翌朝は、きれいに晴れ上がった。
高松行の飛行機まで少し時間があったので、成田山新勝寺に立ち寄ることにした。
まだ8時前だったが、境内にはすでに参拝客の姿がちらほら見られた。
本殿でお参りした後、社務所に立ち寄って、絵馬をかけさせてもらった。
「この星にやってきたばかりの、あの小さな命が、幸せでありますように」
という願いを込めながら。
朝の光の中、絵馬掛けの向いに、三重塔が静かにたたずんでいた。
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