クーラーをめぐる大冒険(1) ※試作

2020年8月30日日曜日

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 俺は猫である。名前はまだない。

が、そろそろ持たねばならぬと思っているところである。


ことの発端は、あの小娘だ。

俺が寝泊まりしている寺の境内には、3日にいっぺんくらい、若い母親と小娘が遊びにくる。

母親は、「ひかり、今日はお空がきれいだねえ」などと呑気なことをいつも言っている。

なので、俺はこいつを「ほわほわさん」と呼んでいるのだが、あれはつい3日前のことだ。


ほわほわさんが、小娘を連れて、いつもどおり散歩に来た時。

小娘が俺をじいっと見て

「ママ、トトロがおるで」

と言い出したのだ。

「ひかり、猫さんはトトロじゃないよ」

とほわほわさんは言ったが、小娘は「ううん、トトロだもん!」と、俺を捕まえたそうな素振りを見せたので、俺は一目散に逃げ出した。


それから、俺はミケ子を訪ねた。

独立独歩の誇り高き野良猫である俺と違い、ミケ子は人間どもに飼われている猫である。

なんでも、ここに来る前は、「東京」とかいう大きな町の、「たわあまんしょん」に住んでいたらしい。

だが、ミケ子の飼い主の夫婦が、東京に嫌気がさしたとかなんとかで、去年こっちに引っ越してきたのだとか。

今は、まあまあの広さの庭が付いた、2階建て一軒家に住んでいる。

俺がミケ子と知り合ったのは、ネズミを追いかけてミケ子の家の庭に入りこんだ時のことだ。

物珍しさから、俺はミケ子としばらくおしゃべりした。

「それはもう、東京は素晴らしいところでございましたのよ。それに比べてこっちは、本当に野蛮ですこと」

ミケ子の高慢ちきな口調はしゃくに触ることが多かったが、ミケ子はなかなか物知りである。

そして・・・。ちょっと可愛くないこともない。

そんなわけで、俺も、やつが暇しているだろうと思って、時々会いに行ってやるのである。


この日の午後も、俺がミケ子を訪ねてみると、ミケ子は縁側で、気持ちよさそうに目を閉じて日向ぼっこをしていた。

「うにぁあ」と呼びかけると、ミケ子は目を開いて「あら、いらしてたんですの」と、いつもの鼻にかかった声で応えた。

しばらく世間話をした後、俺はミケ子に「トトロとは何やねん?」と尋ねてみた。

「あら、それはスタジオ・ジブリのアニメのキャラクターですわ」

ミケ子によると、なんでも人間は、「あにめ」とかいう、架空の人間や動物が出てくる物語を、「てれび」とかいう機械をつかって見るらしい。

そして、トトロというのは、その、ザブリだかズブリとかいう「あにめ」に出てくる”大怪獣”なんだとか。

人間が、そんな作り話でウキャウキャやっているのは、まあやつらが馬鹿だから仕方ないことだ。

だが、それを俺のような誇り高き猫にまで当てはめるのは、全くもって迷惑な話である。

そんなわけで、俺も、そろそろちゃんとした名前を持たなければ、と思っている次第である。


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