成人式での「はれのひ」事件に関して思うこと

2018年2月3日土曜日

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今年1月8日の成人の日、横浜にある着物販売・レンタル会社「はれのひ」が突然、営業を停止した。成人式に臨む多くの新成人たちが、予定していた着物を着付けできない事態となった。

この事件は、メディアでも大きく取り上げられた。僕も新聞やネットニュースで知った。

実は、僕は成人式に参加したことがない。

いろいろ事情はあったが、大学時代、「自分のような人間には、成人式のような晴れがましい場所に行く資格はない」と感じていた。そのため、成人式当日は、社会問題の勉強会に参加したりしていた。

そんな経緯があり、成人式に関して特別な思いはない。むしろ、今となっては、「成人式関連ビジネスって、どのくらいもうかるのかな?」といった下世話な疑問を思い浮かべる程度だ。

ただ、「はれのひ」の篠崎洋一郎社長が事件発生後から2週間以上、”雲隠れ”していたというニュースを見て、ふと思ったことがあった。

「雲隠れ」の背景に想像される混乱

篠崎氏は1月26日に記者会見に臨むまで、神奈川の知人宅に滞在していたという。新成人たちの”一生に一度の機会”に泥を塗ったとされる彼は、その間、何をしていたのだろうか。

自分の資産隠しや、自己保身の方法を弁護士と相談していた、ということもあるかもしれない。

ただ、僕が”雲隠れ”の話を目にした時に想像したのは、「この人は、きっとひどく混乱していたんだろうな」ということだ。

※篠崎氏のパーソナリティーについて、僕はメディア報道以上のことは知らない。なので、ここからは「仮に自分が篠崎氏の立場にいたとしたら、どう振る舞うか」という想像だと受け取ってもらいたい。

倒産に直面した時、自分が”立派に”振る舞えるか

企業の進退は、さまざまな社会の動向の影響を受けるものだ。お客様への誠意を持って事業に取り組んできても、会社を畳まざるを得ない事態に追い込まれることもあるだろう。

そうした時に必要なのは、ステークホルダー(消費者、取引先、従業員など)にできるだけ被害を与えない形で事業整理をすることだと思う。

個人的には、「はれのひ」事件に寄せて、経営コンサルタントの木走正水氏がブログサイト「BLOGOS」に寄稿していた記事が印象的だった。

はれのひ倒産社長会見に愚考する〜BtoC企業の倒産は経営者の矜持不足が悲劇を招く

木走氏が担当された零細企業の経営者の方は、倒産を余儀なくされる中、最後まで従業員の雇用を守り、倒産時にはわずかな自己資金も全て従業員に渡したという。

この記事の「自己破産手続きの書類にサインするのを気丈にも夫の肩に手を添えて見守る奥さんの姿」という下りを読んで、思わず目頭が熱くなった。

困難な状況下で、この経営者の方が取った立派な態度に、居住まいを正される思いだった。


ただ、自分がもし、「はれのひ」の篠崎氏と同じ立場だったとしたら、正直、木走氏が紹介した経営者の方のような立派な態度を取れる自信がない。

実際、もしこうした困難な事態に陥ったら、さまざまな不安が自分の頭を錯綜するだろう。

「会社が倒産したら、オレの人生どうなってしまうんだ」
「オレはこれまで優秀な人間としてやってきたんだ。自己破産なんかしたら、オレのプライドが傷つく」
という自己保身の悩みもあるだろう。

「子どもたちの学費を出せなくなる」といった家族の問題もあるかもしれない。

「従業員の待遇はどうする」「取引先への責任は」といった、仕事上の悩みも当然ある。

さらに、家族から「破産なんかしたら、アタシや子どもたちはどうなるの!」といった非難だったり、親から「お前が破産などしたら、世間様に顔向けできん!」となじられることもあると思う。


篠崎氏の記者会見は、さまざまなメディアが「”すべての責任は自分にある”と言っておきながら、責任逃れしようという気持ちが端々に覗いている」と厳しく書き立てていた。

ただ、自分が篠崎氏と同じ立場だったら、恐怖や混乱のあまり、同じような醜態をさらす気がした。


もっと小さい話だが、自分自身、これまで仕事をする中で、(特に忙しくて十分に考える時間がない時)「うまく行っていない案件をごまかそうとして上司から怒られる」ということがよくあった。

その時の自分を振り返ると、「上司をだましたい」という積極的な悪意が働いているというより、「どうしていいか分からなくて、困って、しどろもどろにその場しのぎをやってしまう」ということが多い。

「(勇気がないだけでなく)誠実になれるほど、”頭も良くない”」というのが、自分の正確な姿ではないかと思う。

(まあ、”その場しのぎ”をやると、後で大きなしっぺ返しがあることが社会人生活を通して分かってきたので、昔より多少はマシになったが)


本当に頭の良い人なら、将来の自分の信頼回復や、世間から同情を買う戦略を考え、早めに「ごめんなさい」と言ったり、事業清算したりするのではないかという気がする。

そんなことを考えていて、メディアからさまざまなバッシングを受けた篠崎氏の姿に、臆病で頭も良くない自分のことを重ね合わせてしまったのである。

「潔い態度を取る人間はクール」という風潮をつくる

このブログで何度か言及させてもらった、マインドフルネス瞑想を世界に広めたベトナムの禅僧、ティク・ナット・ハン師は「集合的エネルギー(Collective energy)」という言葉を使うことがある。

「集合的エネルギー」とは、人間の感情は個々人の性格だけでなく、社会的に作られている側面があるという考え方だ。

実際、「不安な人たちに囲まれていると、自分も不安になる」「逆に、元気な人たちと一緒にいると、自分も元気になる」といった経験は、多くの人があるのではないかと思う。

実は、この記事を書いて、先ほどの木走氏の「BLOGOS」記事を紹介しておこうと思ったのも、臆病者である自分が難しい事態に直面した時、少しでもまともな対応をできるよう、(本当に微々たるものだが)日本社会の「集合的エネルギー」に働き掛けておきたい、という思いがあったからである。

今の日本には、「卑怯な人間はけしからん」というバッシングを好む風潮のほうが強いと思う。

これが必ずしも悪いとは思わないが、正直なところ、自分のような臆病な人間の場合、それに恐怖を感じて、何かが起きた時、ますます混乱した対応を起こす結果になっている気がする。

むしろ「仮に倒産のような事態になった時に、潔く振る舞う人間は、最高にクールだ」といったプラスの風潮が、日本社会で醸成されれば、こういった問題はもっと減るだろうし、僕ももう少し勇気を持てるのではないかという気がする。

「はれのひ」事件では、多くの人が嫌な思いをした。もし、この負の経験から、少しでも建設的な要素を引き出せるとしたら、そうしたことではないかと思う。












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