安逸とした生活をしばらく送っていると、再び困難と向き合うことが恐ろしくなる。
そんなときに、たまたま読んだ、ヘルマン・ヘッセ『知と愛』のこの言葉が心に留まった。
物語の終盤、芸術家のゴルトムントが、友人で修道僧であるナルチスと会話するシーンだ。
感性の人であるゴルトムントは、放浪の旅をし、己の愛欲や自由への希求に従い、何度も死にかけるような人生を送ってきた。
そんな彼が、理知的なナルチスに対し、
「人生の問題をかたずけ、絶望を防ぐことは、君たち思索家や進学者にはずっとうまくいくように思われる」
と羨望の言葉を述べる。それに対し、ナルチスが応えるのが、この言葉だ。
「持続的な平和などありはしない。常にくり返し不断の戦いによって戦い取られ、毎日毎日あらたに戦いとられなければならない平和があるばかりだ。君はわたしが研究しているときの戦いを知らない」
ナルチスはそう語る。
一度、平穏なときを過ごしたあとで、再び困難に向き合うとき、「人生というのは、終わりのない苦役なのではないか」という気がしてくる。
だが、人生というのは、苦役と平穏の繰り返しなのだ。
その両方を受け入れる、心のあり方を持つこと。
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