男たちの裸祭り:岩手・金ケ崎町の「蘇民祭」を見て

2019年2月3日日曜日

t f B! P L
道を練り歩く参加者の男たち
「わーしょい!」「わーしょい!」

水をぶっかけられた瞬間、振り絞るような掛け声が上がった。

1月の東北。晴天とは言え、気温は氷点下に近い。

そんな凍てついた空気の中、ふんどし一丁の男たちがバケツで水をぶっかけ合う。

肉体と肉体を押しつけ合いながら、大声を張り上げる。

見ているこちらも、全身が総毛だって、内側から熱さがこみ上げてくるようだった。

岩手県金ケ崎町の「永岡蘇民祭」


1月26〜27日、岩手県南部にある西和賀町金ケ崎町をめぐるツアーに参加した。

県の助成による移住促進イベントで、友人に誘ってもらったのだった。

このうち、2日目朝に訪れたのが、金ケ崎町の「おらが村の永岡蘇民祭」である。

蘇民祭」とは、岩手県を中心に各地で行われる裸祭り。厄払いや豊作を祈る行事。

特に、奥州市の「黒石寺蘇民祭」は、「日本三大奇祭」に挙げられるほど有名だ。

インターネットで拝見した以下の体験記によると、-12℃の中を夜中に川で水浴びしたりするそう。

見ているだけで死にそうである・・・。

岩手 蘇民祭2018|-12℃!!ほぼ全裸!
命の覚悟を持って参加した!過酷すぎる炎と裸の祭り 前半戦

金ケ崎町の「蘇民祭」は、もう少し温和な雰囲気のものだ。

けれども、見ていて深く感じるものがあったので、書き記しておきたい。

参加者も水をぶっかけていく

金ケ崎町は、トヨタ自動車の工場がある企業城下町。

その関係で診療所といった生活インフラも充実し、外部からの移住者も多い。

そうしたオープンな気質もあってか、金ケ崎町の「蘇民祭」には、日本全国からの参加者が訪れる。

僕が見た2019年の祭りでは、沖縄のユーチューバーなども参加していた。

お祭りは、以下のような形で行われる。


まず最初に、代表の男たちが餅つきを行い、それを会場にいる来場者で食べる。

(スタッフの女性が、来場者に配って回る。無料だ。)

それから、参加者が入場。彼らを前に、浄土真宗のお坊さんがご祈祷を行う。


そこからが、本番だ。

参加者同士でバケツを取り、水をぶっかけ合う。

そして、おしくらまんじゅうをしながら、「わーしょっい」と掛け声を挙げる。



その後、会場の前の道路を、男たちが腕を組んで駆ける。

周りの人々が、道脇に置かれたバケツに水をくんで、彼らにぶっかけていく。

(自分も2杯、ぶっかけた)


会場に戻ってきたら、裸の男たちの代表者たちが肩車で上にあがる。

そして、飴やお賽銭の入った袋、縁起物の木片「小間木」を来場者にばらまく。

「小間木」は、1年間、厄除けの効能があるお守りだ。これは、来場者で取り合いとなる。

(自分も、なんとか1つ、もらうことができた。)


「蘇民祭」を締めくくるのは、「小間木」が入っていた「蘇民袋」の争奪戦だ。

裸の男たちによるラグビーのスクラムのような状態が、10分間続く。

最後に、袋の口に近いところを握っていた人が、その年のチャンピオンとなる。

「生命の衝動」に気づかせてくれる

「小間木」
「裸の男たちに水をぶっかけるお祭り」。

そう聞いて、最初に連想したのは、滝行だった。

滝行は、冷水に身を委ねることで、無心になることを目指す。

実は、今回、自分が参加したのも、

「滝行と同じような神事が見られるなら、面白そう」

というところがある。

ただ、実際に目の当たりにしたのは、皆で声を掛け合いながら、寒さを乗り切る熱を生み出す熱い男たちの姿だった。

滝行や瞑想のような「静」に対し、「蘇民祭」からは「動」の力を強く感じたのである。


僕は、内向的な性癖が強いため、集団でのイベントごとが苦手である。

不安症なので、基本的に「静」の環境下で、自分を整えたい衝癖もある。

ただ、

「わーしょっい」「わーしょっい」

と声を張り上げる人々を見て、自分の肉の中で、弾けるような熱を感じたのも事実だ。

この、どろっとした、生命の衝動のようなもの。

最近、いろんなことを小賢しく頭で考えすぎていたかもしれない。

もっと、自分は変われる。

「人生がうまく行かない」とあれこれ悩んでいた心が、強く揺さぶられた。

次回は、自分も裸の男になって参加したいものである。


移住促進ツアーに参加しておいて、移住にも金ケ崎町のPRにも関係のない感想で恐縮の至りである。

ただ、この祭りを成り立たせてくれている地元の方々に、率直な感謝を捧げたい。

QooQ